岩手県釜石市の山間に佇む、築100年を超えるの南部曲り家。
三陸駒舎は、単なる乗馬施設ではありません。人が本来持っている「生きる力(回復する力)」を、馬と共に再構築していくための実践の場です。
震災後の歩みの中で私たちが辿り着いたのは、効率や評価に追われる日常を一度離れ、馬という「鏡」を通じて自分自身の身体を見つめ直すプロセスでした。
なぜ、馬なのか。なぜ、この場所なのか。
その理由を、4つの視点からお伝えします。
なぜ馬なのか。なぜこの場所なのか。4つの視点
1. 震災復興の先に見出した、生命のレジリエンス

三陸駒舎の原点は、2011年の東日本大震災に伴う復興支援活動にあります。
- 設立の背景: 震災後の混迷の中で、人間がいかにして根源的な回復力(レジリエンス)を取り戻せるかという問いから、2015年に岩手県釜石市で設立されました。
- 「馬」という選択: 単なるレクリエーションではなく、馬と共に働く、共に暮らすというプロセスそのものが、失われた繋がりを再構築する力を持つと考えました。
- 地域への根ざし: 釜石の豊かな自然と、かつてこの地にあった「馬と人の共生文化」を現代の知見で編み直し、持続可能なコミュニティのモデルを提示しています。
2. 境界のない共生:南部曲り家という「身体的装置」

拠点である築100年の「南部曲り家(なんぶまがりや)」は、眠っていた体の感覚を呼び覚ますための特別な環境です。
- 境界線のない暮らし: 人が住む場所と馬の部屋(馬房)がL字型につながっており、24時間、馬の息づかいや気配を共有します。
- 五感を呼び覚ます: 歴史が刻まれた木の質感、南部鉄器のずっしりとした重み、薪(もみがら)の火で炊き上げるご飯の香り。こうした物理的な環境が、現代社会で忘れかけていた「感じる力」を取り戻させてくれます。
- 命のリズムに合わせる: ここでは、馬が先に食事をし、そのあとに人間がいただきます。動物たちのリズムに従って過ごすことで、一つの「群れ」としての安心感を得ることができます。
3. 馬は「鏡」。言葉のいらない対話

この合宿の核となるのは、言葉になる前の「体の反応」です。
- 「自然な動き」を探る: 「させる/させられる」という力関係を超えて、自分と馬との間に自然と動きが湧き上がってくるような心地よい状態(中動態)を体験します。
- 嘘をつけない鏡: 言葉が通じない馬は、私たちの心の緊張や、無意識な「力み」をそのまま動きとして映し出します。馬は忖度(そんたく)をしない、まっすぐな鏡です。
- 正解のないやり取り: 「うまく乗る」ことよりも、馬という鏡に映る自分を観察し、少しずつ体の力を抜いていく。その繰り返しの中で、他者と響き合うための新しい感覚を身につけていきます。
4. 合宿が大切にしていること〜「評価」を離れて、命のそのままに

現場での実践を記録し、共有・研究・発信へとつなげていくための、私たちの土台となる考え方です。
- ありのままでいられる場: 児童発達支援などの経験から、誰からもジャッジ(評価)されない安心感こそが、人の変化を支える一番の基盤だと考えています。
- 「何もしない」価値: 効率や生産性ばかりが求められる日常から離れ、一見「役に立たない」ように見える時間や存在に光を当てることで、命の本質的な価値を見つめ直します。
- 未来へのアーカイブ: 現場で起きた微細な変化を記録・分析し、現場の知恵と学術的な視点を統合することで、社会全体の「生きる力」を高めることに貢献します。
関連の情報
Podcast「さんこまラジオ」 ─ 馬と身体、古武術をめぐる探求
黍原豊が、身体思想家・方条遼雨氏を迎えて開催した「馬と身体合宿」での気づきを語ります。身体の「力み」を解くことが、いかに馬との、そして人との対話を変えるのか。古武術の「脱力」とホースセラピーが響き合う、非言語コミュニケーションの深淵に触れるエピソードです。
- 身体の即時性: 古武術のワークで試した「意識の使い方」が、即座に馬との関係に反映されるメカニズムを解説します。
- 不完全さの謙虚さ: 「一生をかけて解除していく」という終わりなき探求の姿勢が、対等な関係性を築く鍵であることを紐解きます。
- 群れのあり方: 特定のリーダーを置かない「馬の群れ」のような集団運営が、現場にいかに安心感をもたらしたかを振り返ります。
エッセイ「馬が教えてくれる、身体の対話」
この合宿の背景にある考え方を、黍原豊がエッセイとして書きました。
馬と身体、〈あり方〉と脱力について、より詳しく読みたい方はこちら。

馬が教えてくれる、身体の対話—環境と響き合う身体を取り戻す—|きびはら ゆたか
身体思想家、古武術研究家の 方条遼雨さんと共に、馬との関わりを通じて身体を探究する合宿を2025年5月に開催予定です。本エッセイは、合宿の関連エッセイです。 1. 導入:馬のそばに立つということ 「あ...
動画「方条さんと馬と身体合宿」の魅力を語る会
特別ゲスト:方条遼雨さん、語り手:黍原豊、あおいえりか
2025/3/30 youtubeライブにて収録
